世の中副業する方向で薦められるのですが、申告で却下になったり、会社が前向きなのか後ろ向きなのかよくわかりません。
著者は利益相反や汚職につながらない条件で、どのような方でも副業推進派なのですが、会社側からすると、制度上NGにもしたくなる事情もわかるので、メリットとデメリット、NGにしたくなる例(就業規則や副業規定の参考に)を解説したいと思います。
なぜ副業に注目?
雇用の流動性が低く、辞めさせづらい状況下、成果主義やジョブ型に切り替えていく流れの中で、社員の給与水準を上昇させ続けることに限界があることと少しだけでもジョブ型人材を外部から調達できる過渡期で、副業が注目されていると考えています。
個人のメリットは副収入が得られる、社内では培えないスキルと人脈が作れることで望むキャリア形成ができることが挙げられます。
会社側の課題
以下のケースは副業NGにしていることが多いかと思います。逆にいえば以下の場合以外には副業は認めざるを得ない判例となっています。
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
- 自社の有形無形問わず資産を利用する行為がある場合
上述禁止行為をしないことを宣誓させつつ(違反の場合は禁止or制限or罰則)、就業規則で「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」とし、以下の内容を申告させるところも多いかと思います。
- 雇用形態
- 就労時間
- 就労場所
- 業務内容
- 取引先
問題点1:取引先と競業避止
副業したい側は「現業務で使っているスキルを他の会社でも活かしたい」と思うのが通常なのではないかと思うのですが、そのスキルは現職によって得られて現職の職務専念義務の中で活かされるとして、その程度によっては競業避止に該当とされる可能性があります。そのため取引先の提示を求められますが、副業先でも秘密保持契約を結んでいるため、開示不可能になる可能性があり、申告できないこととなってしまいます。また競業というのも曖昧で定款に書いてあってもやっていない事業があることも多く、また当該企業が多角的に事業を営んでいることも珍しくありません。
それを潜脱した実例として、退職者が興した会社からの受注案件として競合の業務を下請けする(よって副業するものは二次請けになる)事案があり、当該退職者の会社自体を「後から」副業禁止企業としたことがあります。また禁止例として、所属する「主部署が営む業務と同じ業務を受託してはならない」ということが考えられます。まとめると、以下のようになります。
- どうやって競業を判定するのか、競業をどのように定義するのか曖昧
- 取引先の開示ができないことが通常の商習慣であり、迂回取引も出来てしまう
- 後から禁止することによって、副業者の心象が悪くなる
法律的には退職者の競合転職や起業と同じで、以下の度合いで解釈されるかと思います。どこかで米国のようにどれだけの顧客リストを副業先(転職先)で使えるかがその人の価値になっていく(不正競争防止法の訴えたもの負け)時代になるかもしれません。
- 競業行為を制限する期間・場所
- 制限する職種・仕事内容の範囲
- 会社が競業を制限することへの代償を払っているかどうか
もうこの時点で「申告許可制もやめて、確定申告はしてもらってお互いこっそりやってしまいましょう」としたくなるものなのですが、会社側は知ってしまったがゆえに次の管理が求められます。
問題点2:労災補償と健康管理時間
2020年9月の法改正により複数業務要因災害という概念が生まれ、副業などでの労災補償が拡大することで労働者にとっては良いことなのですが、会社側(本来は副業先も)は超過労働にならないよう安全配慮義務を負うことになり、例えば本業のストレスが原因で副業先で脳・心臓疾患や精神障害などの傷病が発生した場合、本業と副業先の負荷を総合的に評価して判断して労災認定されるようになりました。これまで自社内の労働時間だけで健康管理し、着地予測を出して36協定内の業務時間管理をしていることが、会社側からコントロールもできず、申告が日次で連携できない状態になってしまうことから実務的にどう管理するのかという難しさが発生することになっています。
- 副業時間管理と把握が困難
- どちらもリモートワークで家での傷病発生時に労災判定はどうなるのか(副業先通勤の場合は副業先での労災扱い)
- 月中で副業制限することで発生する納品遅れや労務提供不可分を補てん義務はしなくとも会社に対して心象が悪くなってしまう
問題点3:時間と物品
そこで難しくなるのが、業務時間や場所を固定化したとて、現在リモートワークが進み、またクラウド化が進む中、本業と副業の時間の境目がわからなくなるケースが存在することです。会社としてはもちろん決められた業務時間内は職務専念義務を負うものとし、また貸与物(パソコンや携帯や通信費光熱費補助など)は本業のためだけに用いられるべきとしていると思いますが、実際にはGmailなどクラウドツールでどちらの会社の業務も切り替えられ、業務時間の中で会社の貸与物を利用して副業してしまっているケースも多々あるかと思います。防止策としてURLフィルタリング、ログ監視、画面監視、現業のマイクロマネジメントが考えられますが、現実的ではないと思っています。そして本業のほうが時間単価が高い場合、所定労働時間は本業→以降副業→深夜残業時間に本業に戻ることで割増残業代稼ぎができてしまう可能性もあります。
- 休憩含め業務時間が曖昧になる
- 貸与品を副業で使われても判別が難しい
- 割増残業代や高スペックマシンやソフトの利用者には性悪説で臨む必要がある
問題点4:偽装請負と買いたたき
副業先で業務委託契約としていても、出退勤を健康管理上把握すべき理由から日々勤怠をつけたり、一人請負型で副業のクライアントワークを直接指示を受けるパターンなどは偽装請負の可能性があります。労働者側のデメリットは買いたたかれていること(中間搾取されている)や残業代や労働上限がなかったり、有給休暇や突然の契約打ち切りが出てしまうことから本来的には雇用契約を結ぶのが正しいやり方になります。もちろん形式要件として、指示命令が副業先で決まっていて、業務の進め方や時間場所の裁量が労働者側にあるなど揃えることができますが、クラウドソーシングが多く副業ブームでより単価が下がっているように思えてならないケースも散見されます(発注側の不安や不安定要素がそれを是としている印象ですが)。
参考:(PDF注意)労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準
- 副業先が実は偽装請負で本来は雇用しなければならないケースも
- 扱いやすい買いたたきの温床になっているケースも
- 結果として安い労働力への期待となってしまい生産性が悪い可能性がある
問題点5:採用時と教育時
同じ業界内での転職はよくあるかと思いますが、それが兼業だったり副業持ちだった場合、競業避止をどう扱うかという問題も生じます。同じ取引先の業務をすることになってしまった場合、取引を停止させるのか業務から外すのか、また新規営業で受注しないなどのルールを設けられるのかというのは微妙な判断かと思います。解決策として入社当初〇か月は副業を禁ずるとしたとして、当人にとっての内定承諾ハードルが上がってしまう問題が生じますが、今後入社時に「兼業など今後副業となる業務を継続する意思があるか」を聞く時代になるのだと思っています。
一方新卒入社などの教育時は時間管理スキルやそもそもの本業での業務スキルを磨く時なので、申告をはねるか事前にルール化しておくことは考えられます。学生起業家や20代入社はすべて新卒入社として扱うような会社の場合は「当社が定める育成期間〇か月中は副業を制限する」などが考えられます。
- 中途採用時の副業の継続意志がある場合の扱いをどうするか
- 育成期間中の副業制限をかけるかどうか
まとめ
- 就業規則、副業ルール策定の際は上述問題点を考慮し、弁護士や社労士と協議して作成をするのがおすすめです
- いまの法制度上は労使ともに知らないふりをして、労働者側が時間管理や確定申告を行うのが良くなってしまっている(一部副業紹介&勤怠連携できるASPもあるとのこと)
- 副業で買い叩かれないためにも、そもそもの本業の年収アップや転職を考え「副業を認めないと辞められてしまうから認めざるを得ない」という人材を目指しましょう
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以上、あなたのキャリア形成の一助になれば幸いです。